SSブログ

【パワーハラスメント】部下への叱責・愛のムチはどこまで許される? [危ない法律]

昔から職場で起こりがちな「愛のムチ」は部下を育てたいという思いに基づいた、激励・指導である限り、その行為自体はパワハラではないとの風潮がありました。
しかし、近年では司法の世界ではどんな事情があろうと、どの程度であろうとパワハラ行為は原則として許されないという解釈になっています。

パワハラとは、上司や上位にあるものが、その職務権限や権力を悪用して行う、まさに職場の「いじめ」です。就労者の尊厳を侵害する言動や、雇用不安を与える行為などが相当します。
現在、パワハラについては、セクハラのように法律で明確に規制する条項はありませんが、裁判で争われたケースでは、会社側(使用者側)の言い分が認められずに、原告側(労働者側)が勝訴する判決が増えています。

たとえば、自殺したのは過労とパワハラによるものだとした遺族側が、遺族補償年金を不払いとした労働基準監督署長を訴えて勝訴した中部電力事件(名古屋高裁・2007年10月31日判決)。道路舗装大手の社員だった男性がうつで自殺した原因はパワハラだったとして、遺族が一億四千五百万円の慰謝料支払いを会社に求め、同社に三千百万円の賠償を命じた前田道路事件(松山地裁・2008年7月2日判決)などの判例も同様です。

また、パワハラからうつになった営業マンが自殺に至ったという日研化学事件(東京地裁・2007年10月15日判決)は、パワハラとして初めて労災認定がされた判例となりました。

一般的にパワハラの加害者は、民法もしくは刑法の適用を受けます。たとえば誠昇会北本共済病院事件(さいたま地裁・2004年9月24日判決)では、当時21歳の元准看護師Aに、地位を利用して三年間パワハラを続けて自殺に追い込んだ看護師Bが、「いじめ行為による不法行為責任(民法709条)」の適用を受け一千万円の慰謝料支払いを命じられました。A、Bの職場だった病院側にも「安全配慮義務を怠った債務不履行責任(民法415条)」にあたるとして、500万円の慰謝料支払いが命じられました。

刑法が適用された例としては、たとえばヨドバシカメラ事件(東京地裁2005年10月4日判決)のように、正社員が派遣社員に対して肋骨骨折などの暴行を加えた事件があります。ただし、暴行以外の手段による場合でも、嫌がらせやいじめが長期に渡り相手に精神的被害をもたらした場合は、その行為が精神的障害を生じさせる現実的危険性があるとして傷害罪(刑法204条)の刑事責任が問われることになります。

ILO(国際労働期間)が、「流行病的レベルに達している」と最新の報告書でまとめたほど、今やパワハラという職場のいじめは世界的な問題になっています。
特に日本人は、我慢強い生真面目な気質、退出の自由がない閉鎖的な職場、社員が持つ正社員や社名へのこだわりなどが足かせとなり、うつから自殺に追い込まれてしまうケースが少なくありません。

パワハラをなくすために必要なことは、職場全体の意識改革です。
使用者が、労働者はコストではなく貴重な人材なのだという認識を持つことに始まり、管理職研修を含む企業内研修や、社内報・パンフレット・就業規則を通じてパワハラの実例と、その違法性を全社員に理解してもらうことが不可欠です。

「こんなこともできないなんてバカか」「おまえはいるだけで目障りだ」などの言葉の暴力が横行している職場は健全ではないと理解し、その芽が出ない職場環境づくりを徹底すべきです。


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。